多摩川住宅建て替え問題

多摩川住宅裁判は東京都調布市の多摩川住宅でマンション区分所有者がマンション管理組合から提訴された訴訟です。背景には建て替え問題があります。

管理組合は管理費と遅延損害金を請求しています。これに対して区分所有者は管理組合役員らのお手盛り値上げではないかとし、明細を明らかにすることを主張しています。管理費支払いは管理組合のサービスの対価です。管理組合がきちんと運営されていないならば支払いを拒否する正当理由があるとするのが消費者感覚です。アメリカ独立戦争では「代表なくして課税なし」と主張されました。

この裁判の背景にはマンション建て替え問題があります。業界紙では多摩川住宅の建て替えが既定路線であるかのように報道されています(「【多摩川住宅】前例なき“巨大団地建て替え” 4者一体で取り組む」建設通信2018127日)。しかし、建て替えせずに住みつづけることを望む住民もいます。

SDGs; Sustainable Development Goals11番目のゴールは「住み続けられるまちづくりを」です。莫大な資金を投入して、きらびやかな街づくりをするよりも、使いどころを考えるべきでしょう。多摩川住宅はテレビドラマ『カルテット』のロケ地にもなりました。この点でも建て替えは惜しまれます。

管理組合が建て替えのコストやリスクなどの不利益事実を十分に説明していないとの批判もあります。住民はマンション建て替えの場合に区分所有者の負担する費用の上限を明言することを求めています。これに答えられない建て替えには天井のないリスクがあることになります。

区分所有権は建物の共有であって、管理組合が決めたことに一方的に従う関係ではありません。管理組合運営には公正な手続きや透明性は不可欠です。建物の維持管理や建て替えの必要性から逆算して一方的に結論を押し付けることは本末転倒です。

ところが、日本では建物の維持管理や建て替えをスムーズに進める上で区分所有者の反対がネックになっているとの問題意識から管理組合の意思決定を迅速にできるようにしようとする議論がなされがちです。多摩川住宅裁判は林田医療裁判の支援者からの情報です。当事者の納得を置き去りに進める発想は、林田医療裁判の治療中止と重なります。

マンションの老朽化が問題視されます。不動産業者や建築業者が自社の利益優先で、住民の不利益な建て替え計画を提案することがあります。被害に遭わないよう居住者が真剣に考える時が来ています。気をつけないとせっかく貯めた管理費が業者の食い物になってしまいます。高額なお金が動きます。居住者一人一人が目を光らせていないと。後で泣きを見ることにならないように。

「大手デベロッパーが販売するマンションの場合は、長期修繕計画書を売り主か施工業者が作成することが多いが、ここに書かれた数字がデタラメだったというケースもある」(「2022年、タワマンの「大量廃墟化」が始まることをご存じですか」週刊現代2019817日)

これは東急不動産だまし売り裁判に当てはまります。東急不動産が江東区東陽に分譲したマンションは駐車場・駐輪場料金を一般会計に算入していました。ところが、管理会社の東急コミュニティーは駐車場・駐輪場料金を修繕積立会計に算入して長期修繕計画を作りました。管理組合理事長が発見し、計算し直したところ、築10年目の修繕で資金ショートが発生することが判明しました。東急コミュニティーは契約書通り点検を行わないなどの問題もあり、管理会社をリプレースしました。

第3回口頭弁論は2019年4月18日に行われました。第3回口頭弁論で結審を予告されていましたが、多数の傍聴者が見守る中、代理人の熱弁によって、第4回口頭弁論が設定されました。

第4回口頭弁論は2019年6月13日に行われました。2019年8月9日には区分所有者代理人の大口昭彦弁護士による説明会を弁護士会館9階で開催しました。

第5回口頭弁論は2010年8月22日午後4時から立川簡易裁判所で開かれました。区分所有者側は準備書面を提出しました。管理組合側は理事会に諮っていない、どこまで可能かも含めて持ち帰って相談すると答えました。

 

多摩川住宅裁判の第6回口頭弁論が2019年10月10日午後4時から立川簡易裁判所102号法廷で開催されました。調停案で「管理組合は管理規約等にのっとり区分所有者に誠意をもって対応することを約束する」との条項が示されました。これに管理組合側は難色を示しました。

管理組合が管理規約に基づいて誠意をもって対応することは当たり前なことです。当たり前のことが当たり前でないという管理組合運営の実情があります。当たり前なことに管理組合代理人が難色を示したことは、これまで昭和の村社会的に運営されていたのではないでしょうか。よほど管理組合は管理規約に基づいて誠意をもって対応することが嫌なのでしょうか。それでは公正な建て替えはとても期待できません。

管理組合代理人は公の場で言うことが憚れる部分もあるので司法委員に説明したいと述べました。区分所有者の代理人は内容を知らないまま手続きが進むことは不公正であり、同意しかねると答えました。傍聴者からは「何のための公開法廷か」「公平じゃない」「秘密裁判は怖い」との感想が出ました。

 

裁判所は職権で調停案とほぼ同じ内容の17条決定を出しました。民事調停法第17条は以下のように規定します。「裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衝平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、受事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる。この決定においては、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる」